Blog

「アナと雪の女王」にみるダイバーシティ

2014年5月 6日 Creatorsトーク,レビュー

アナと雪の女王イメージ

大ヒットの勢いがすごい「アナと雪の女王」

「アナと雪の女王」が、公開8週を過ぎたGW週末で、前週越えどころか公開された週を越える動員記録を作ったそうです。神田沙也加と松たか子による日本語吹き替え版の完成度も高く、iTunes StoreではCD発売されていない松たか子の「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」がチャート1位を7週連続キープ(5月6日時点)する勢い。これは、今年の紅白歌合戦でエンディング版を歌ったMay Jとの競演があり得そうですね。

世界的に大ヒットした映画を公開時に観ることは、大切な共通体験になると思います。この作品を観たのは何歳の時で、それは自分にとってどんな時代で、どんなふうに感じたか。そこから、さまざまな背景を持つ人とも作品を通したコミュニケーションが生まれるでしょう。

子供にだって伝わる素晴らしさ

「アナと雪の女王」が素晴らしい作品であることは、私が鑑賞した時、席を立って出口に向かう親子づれの小学校低学年くらいであろう女の子が口にした言葉に集約されていました。「おもしろかった!んー、おもしろい映画はいろいろあるけど、この映画は観てよかった!って思った。」
子供向けでは決してなく、大人が観ても楽しめて、なにかが残る作品。言い換えれば、大人が観て満足できる作品なのに、子供だってきちんと楽しめる。それがディズニー作品の使命であっても、達成するにはかなり高いハードルなんだってことを思い知ります。

自分の持つ力をコントロールできないせいで、大切な人を傷つけてしまう恐怖、周囲から受け入れてもらえない不安。誰とも接しないことでしか自分が存在が許されないと思い込んでいる姉エルサ。
そんな姉とは正反対に、オープンで飾らない性格のアナ。ただし、幼い頃仲良く遊んだ姉がある時から自分を避けているのが、解決できない心の曇となっている。

「アナと雪の女王」の新しさ

今までのお姫様ストーリーは、アナのような子が運命の人と結ばれて、めでたしめでたしでした。
「アナと雪の女王」が今までのお姫様ストーリーと違うのは、心を固く閉ざし強い魔法の力で人々に苦難を与えてしまう姉エルサを「悪者」扱いしていないことです。誰だって持っている自分の内にある不安や恐怖、ほかの人とは違うかもしれないという引け目を、いけないことだと決めつけていません。雪山に一人逃げ込んで歌う「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」は、力強い歌で圧倒的な開放感と自己肯定が高揚感を生みますが、一人で自由に生きることを選んだ絶望感をも、見事な映像表現で描いてみせてくれました。
対して妹アナのような子であれば、多くの人からも好かれるし、周りからの支持を得て自分の思い描いた未来を築いていけるでしょう。従来型のお姫様像、男の考える「理想の女性」に近づくことを目標としない、自然体のアナに新しさを感じます。
でも誰だって、アナのような面とエルサのような面を持っているはず。その割合が人によって、場によってまちまちなだけ。
お互いの存在を誰よりも必要としている姉妹が、両極の立場に置かれ、1人の内面でなく2人に分かれているからこそ、エルサのとても複雑なメンタルが描かけているんだなぁと感心したのでした。

ダイバーシティというキーワードが頭に浮かんできた

ここで頭に浮かぶキーワードがあります。それは「ダイバーシティ」(多様性)です。
少し前まではLGBTについて語る場合よく使われていたこのキーワードが、最近は企業の開発コンセプトや、ユーザーエクスペリエンス設計で目にするようになりました。
自分とは違う人の価値観や嗜好性を認め、受け入れること。お互いに差違をリスペクトしあい、補うあうことで、新しい価値を創り上げていくこと。「普通」という数の暴力を恐れずに、自分の居場所を見つけること。
エルサの恐れは、自分一人で抱え込まず、心から愛することでコントロールが可能であることを覚え、人々がその力を理解することで解決されます。
いやいや、世の中そんなうまくいくものではない、と思っちゃいますよね。ネットでは相手がなぜそういう考えや発言をするかを考える前に、「〜ってなんなの?」「〜ってばかなの?」という言葉が脊髄反射で発せられます。自分にとってどれだけ大切な人かどうかによりますが、自分の特異点を受け入れてもらうために、他人の違いを受け入れて、両者にとって前向きな「ありのまま」を作り上げていけたらいいですね。映画でも「誰だって完璧じゃない♪」って歌ってたもんね。

これだけ世界的な大ヒットになった映画で、決して作品を消費するだけで終わらせないディズニーだからこそ、「アナと雪の女王」で描かれた、ありのままの自分と折り合いを付ける生き方、そして現時点における公約数的なダイバーシティな観点を広く長く伝えていって欲しいなと思いました。


ところで、「アナと雪の女王」よりも前作「塔の上のラプンツェル」の方が好き、というレビューもネットで見かけます。ディズニーのクラシックな王道を現代的な表現で描いた「塔の上のラプンツェル」は、すごく独断的ですがジブリでいえば「ラピュタ」的位置づけなのかなと思いました。「塔の上のラプンツェル」があったからこそ、「アナと雪の女王」というステップにいけたのだろうとも。


■5月11日21:30から、MUSIC ON! TVにて、「アナと雪の女王」特番が再放送されます。 日本語版キャストの神田沙也加、ピエール瀧らが作品の魅力を語ります。

■「Let It Go」の大ヒットが映画館への動員を押し上げているんでしょうね。一緒に歌おうバージョンでの上映は新しい試みです。


written by TZK:アートディレクター

※この記事内容はTZK個人の見解・意見であり、所属する組織の公式見解ではありません

コメント

コメントを書く

コメントをどうぞ